2013/03/23

香水、香港、そして圧巻の大パノラマ

(店長)
昔々のエピソード。
今から20年ほど前のことだったと思います。
先生がまだ香水の仕事を始めて間もない頃、自分たちが所有する香水の数が少ないのが悩みの種でした。
当時の日本ではまだ香水を正規に販売しているところは少なく、販売している香水の種類も悲しいくらいに少ない時代でした。
海外ではどんどん発売されているのに、日本ではほとんど買うことができない。
そんな状態に我慢できず、平行輸入品を販売している店が軒を連ねる御徒町によく出かけました。

でもいくら平行輸入品とはいっても、販売価格は定価の7掛けほどで、たくさんは買えません。
御徒町でコツコツと購入するスピードでは、その頃始めた香り教室で生徒さんに充分に香水を紹介することもできません。
そこで免税店天国の香港に出かけたのでした。

私は会社の旅行で一度行ったことがあったので、ふたりの最初の香港旅行で選んだプランは「自由行動オンリー」のツアー。
でも同行した他のツアー客は観光をするので、本当にほったらかしになる私たちを見かねて、添乗員の方が1日だけ観光ツアーに参加させてくれました。
次の日からは私たちだけ別行動。
九龍を中心に免税店のはしごです。
やはり免税価格は安い。
新商品でも、ものによっては日本の半額近い。
予定していた戦利品として確保したい本数だけは香水ボトルを1本買いをして、その旅行は一応の目的を果たしました。

香港は香水が安い。
そう確信した私たちは、翌年、さらにまた翌年と、3年続けて香港に渡りました。
2度目の旅行では地下鉄の乗り方も覚え、とても安く香港中を駆け回ることもできました。

確か2度目の香港での出来事だったと思います。
九龍だったか香港島だったか忘れましたが、とある香水ショップに入ったときのこと。
私たちはすでに目的の香水は別の店で買ってしまっていたので、その店ではミニチュアボトルをたくさん買って帰ろうと決めました。
香水のミニチュアは、正規にブランドが製造しているものと、香りをコピーしてどこかの会社が製造しているものがあり、この見分けは実際には不可能です。
でも香りのイベントではけっこう人気で、当時の日本でもミニチュアコレクターがたくさんいたものでした。
その店の1回には、ミニチュアをたくさん積んだ大きなワゴンが3台ほど置いてあり、女性の観光客たちが品定めをしていました。
私たちはというと、もう節操ないくらい、買い物籠の中にどんどんミニチュアを入れました。
まだ所有していないものは、すべてといっていいほど。
今思えば、ミニチュアでもいいから香水が欲しい!と、余程香水に飢えていたようです。

ワゴンをすべて見終わった頃、店員の一人が私たちを手招きしているのに気づきました。
片言の日本語で、2階においでと行っています。
2階に上がる階段にはロープが張ってあったはず。
見るとロープははずされ、手招きしながら店員が2階に上がっていきました。

2階に上がると、そこにはさらに5台ほどのワゴンが並んでいます。
その中にも香水のミニチュアがびっしりと積まれています。
ここでやっと気づきました。
どうやら私たちのために2階フロアを貸しきり状態にして、ゆっくりと買い物してください、ということだったのです。
お金をいっぱいつかってくれそうな客。
私たちをそんな風に思ったのでしょう。
驚きながらも、広い店内で私たちふたりだけがのんびりと買い物を楽しむことができました。
結局、数十個も買ったでしょうか。
あんなにミニチュアを買ったのは初めてでした。

そんな香港旅行の経験の中で一番思い出深いのは、3度目の旅行でした。
やや香港にも飽きてきたころだったので、買い物は半分、あとの半分は気ままに街で過ごすのが目的。
スーパーで買い物したり、地元の人といっしょにデパートのフードコートでビビンバ食べたり、ちょっとリッチに中国料理店でディナーしたり、ほんとにゆったりと過ごしました。
最後の日の夜、食後の散歩にとベイエリアを散歩していたとき、あるショッピングセンターの脇に外に出られるドアがありました。
関係者以外も出入りできるドアだったのでそこから外に出てみると、うわー、目の前に香港島の夜景が大パノラマで広がっていたのです。
波音を聞きながら、すぐ目の前に広がる美しい都市風景に、ふたりともしばし呆然。
左右を見ると、カップルたちが夜景を見ながら二人の時間を過ごしています。
ここはどうやら、隠れたデートスポットだったのです。

この圧巻の風景を見たせいか、私たちにとって香港はあまりにも近い存在になってしまい、熱が冷めたように翌年から現在に至るまで、もう一度香港に行こうとは言わなくなってしまいました。
ひとつ卒業したのかもしれません。

そして今は、より高等な香水の世界、パリに夢中になっています。